【開催報告】第37回SBP主催経営者朝会(2021/6/18)         

爽やかな初夏を迎えた6月18日(金)、第37回となる経営者朝会を開催いたしました。

今回は『Reskillingリスキリング』をテーマに、自らテクノロジーと人材育成の現場に身を置き、リスキリングを重ねてきた先駆者と共に、日本に求められるリスキリングについて学びました。今回も多くの方にご参加いただき、質疑応答が活発に行われるなど、盛況ののちに終わりました。誠にありがとうございました。

プレゼンター

後藤 宗明 (ごとう むねあき)様  
一般社団法人 ジャパン・リスキリング・イニシアティブ 代表理事  Virbela 日本代表

1995年富士銀行(現みずほ銀行)入行、2000年にNY拠点設立のため渡米、9.11テロを経験し、2001年NYにてグローバル研修領域で起業。2008年に帰国、社会企業家支援のアショカジャパンを設立。その後デジタル分野へキャリアチェンジ、10年かけて自らを「リスキリング」しつつ、アクセンチュア等で、AI、ブロックチェーン、FinTech、HRテックSaaS領域でのスタ-トアップ・事業拡大、日本企業の海外進出、海外企業の日本進出等を手がける。2020年より現職。リクルートワークス研究所にてリスキリング調査担当。

内容

今回の朝会では、一般社団法人 ジャパン・リスキリング・イニシアティブの代表理事を務めていらっしゃる後藤宗明さんにプレゼンターを務めていただきました。

後藤さんは早稲田大学を卒業後、新卒で就職された銀行で営業とマーケティングの人事を経て、人材系の会社を立ち上げるためにニューヨークに渡米。渡米2ヶ月後で9.11テロを経験しながらもそのままニューヨークで若者向け英語学校と企業向けのグローバル研修事業を行う会社を立ち上げられました。その後40歳でデジタル分野へキャリアチェンジし、自分自身のリスキリングを行いました。そんな後藤さんに「リスキリングとは」「リスキリング事例」などについて、広く、そしてたっぷりとお話しいただきました。

リスキリングとは

リスキリングとは原義として、新しい職業に就くために、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する、または、させることを指します。しかし、現代の社会におけるリスキリングとは、「デジタル分野へのスキル転換」とほぼ同義で使用されていることから、【リスキリング=DX時代の人材戦略】であると後藤さんは仰います。

リスキリングと似たものとしてリカレント教育を挙げられることが多いですが、リカレント教育とリスキリングにははっきりとした違いがあります。

リカレント教育は、人生100年時代において生涯学習が大切だ、とされた背景から、スウェーデンの学者が提唱したとされる概念で、「働く→学ぶ→働く→学ぶ」の長期サイクルの反復のことを指します。

一方でリスキリングは、テクノロジー進歩がもたらす雇用消失に対する解決策として台頭してきたもので、学習歴を伸ばすよりも、短期間で終わらせ、仕事を失わないようにスキルを習得していくということが目的になります。また前者のリカレント教育は個人が人生100年時代に何を学びたいのか、というあくまで個人の主体性が求められますが、リスキリングは、テクノロジーの発達によって仕事内容が変わっていくため、企業や国が主体となって先導していく必要があります。またリカレント教育のピークは既に終わっていることもあり、これからの時代はリスキリングのピークが来るのではないかと全世界が注目しています。

リスキリングが急速に進んでいる背景

テクノロジーの発達、そして自動化により、7500万人の雇用消失、そして1.3億人の新たな雇用創出がデジタル分野で見込まれていました。しかし新型コロナウイルスが全世界で拡大したことにより、今後5年間で、8500万件の雇用消失、9700万件の雇用創出に、目標が修正されました。世界経済フォーラムが発行する「The Future of Jobs Report」では、2025年までに企業は、① 6%の人員削減 ② 従業員の半分はリスキリングをする必要 ③ 上記に該当しない人も自分が持つスキルの40%は入れ替えるという三点が必要だと言われています。財務体力があるうちに、政府・企業・個人が一体となってデジタルスキル修得に向けたリスキリングを開始することが重要であるため、すぐにでも始める必要があります。

リスキリング、アウトスキリング、アップスキリングの概念の違い

リスキリング以外にも、アウトスキリング、アップスキリングと呼ばれるものがあります。リスキリングが勉強してスキルを身につけ、全く違う職業に就くことに対して、アウトスキリングとは人員整理の対象になった人に成長産業へ再就職するためのリスキリングを短期間で実施し、退職後のキャリアチェンジを支援することを指します。つまりアウトスキリングとは、リスキリングを行った後に、再就職まで並走する行動のことを指すため、主語が国や企業となります。これらに対してアップスキリングとは現在の分野で適切な役割を果たせるようにするために、スキルアップすることを指します。例えば今まで経理を専門としていた人が、現地点よりも経理の高度な知識を身につけ、経理の分野で活躍するのを目的にする場合、これらの行動はアップスキリングと呼ばれています。

アウトスキリングの3タイプ

上記の中でも、海外ではリスキリングの並走とされる、アウトスキリングが特に注目されています。アウトスキリングには、①アウトプレースメントの進化タイプ、②リスキリングとの融合タイプ、③働く場としての魅力向上を狙うタイプ、の3タイプがあると後藤さんは仰います。

①のアウトプレースメントの進化タイプとは余剰人員を抱えた企業が、退職をしてもらうことを前提に再就職のためのスキル獲得を支援し、獲得後は新たな活躍の場に送り出すことを指します。アウトプレースメントとは元来再就職を支援するビジネスのことを指しますが、ただ再就職を支援するのではないのがポイントです。②のリスキリングとの融合タイプは、将来を見据えて社員にアウトスキリングプログラムを提供する企業に見られます。スキル獲得後に社内で部署を異動する場合もあれば、社外に転職する場合もあります。③の働く場としての魅力向上を狙うタイプとは、採用力の強化を狙う会社に多く見られます。その会社で働くことによりデジタルスキルを身につけられる研修が受けられるのを謳って採用を募ります。スキル確保後は転職する前提ではありますが、人材の確保策の一つとして導入されています。

日本におけるリスキリング

デジタル競争力ランキング上位国は国家戦略としてリスキリングを実施しているのに対し、日本ではリスキリングの普及はまだ見られません。日本はそのランキングで27位に位置するデジタル後進国であり、さらに人材に関しては世界46位と、先進国の中では大幅に遅れをとっています。それを脱出する試みとして、国家戦略としてのリスキリングを実施する必要があると後藤さんはおっしゃいます。デジタル庁及び政策導入に関して、① デジタル分野における女性の活躍支援、②企業向け「リスキリング給付金」の財源確保、③地方自治体におけるリスキリング推進組織の発足の3つを進めていってほしい、という提言でこの日のプレゼンテーションが締められました。

コロナ禍で雇用にも大きく影響が及んでいる中で、今後のキャリア形成について、考えさせられるような、刺激的な本年度二回目の朝会でした。