【開催報告】第31回SBP主催経営者朝会(2019/4/19)  

4月19日(金)、第31回となる経営者朝会を開催させていただきました。

今回は「21世紀の人権擁護〜合理的配慮」をテーマに、いわゆる「障害者差別解消法」、「ヘイトスピーチ解消法」、「部落差別解消法」の三法と「合理的配慮」が、私たちに行動変容をもたらし、より公平な社会へのシフトに繋がるか、専門家の方々にお話をしていただきました。今回も数多くの方がお越しくださり、おかげさまで盛会のうちに終了いたしました。誠にありがとうございました。

プレゼンター

藤井 克徳(ふじい かつのり)様 
日本障害者協議会代表、きょうされん専務理事 ワーカアビリティ・アジア代表

1982年都立小平養護学校(現小平特別支援学校)教諭退職、同年1月より「あさやけ第二作業所」(日本で初の精神障害者対象の作業所)所長、共同作業所全国連絡会の結成に参加。2010年~2014年内閣府障害者政策委員会委員長代理、2014年国連第7回障害者権利条約日本政府代表団顧問。

2012年には国連・ESCAPチャンピオン賞(障碍者の権利擁護関連)受賞。主な著書に『えほん「障害者権利条約」』(共著 2015年 汐文社)、『わたしで最後にして-ナチスの障害者虐殺と優生思想(2018年 合同出版)他。

きょうされんホームページ

尾崎 真理子(おさき まりこ)様 
公益社団法人鳥取県人権文化センター 次長兼上席専任研究員

鳥取県と県内市町村および各種社会団体が平成9年に設立した鳥取県人権文化センターに、平成10年4月より勤務。

地域住民や企業、PTA等が行う人権学習を支援するため、教材開発、人材育成、講師派遣等の活動を行っている。

鳥取県人権文化センター

コメンテーター

垣内 俊哉(かきうち としや)様 
株式会社ミライロ 代表取締役社長

1989年生まれ、岐阜県中津川市出身。立命館大学経営学部在学中の2010年、(株)ミライロを設立。障害を価値に変える「バリアバリュー」の視点を活かし、企業や自治体、教育機関におけるユニバーサルデザインのコンサルティングを手がける。2014年には日本を変える100人として「THE100」に選出される。2015年より、日本財団パラリンピックサポートセンターの顧問に就任。

ミライロホームページ

内容

藤井 克徳(ふじい かつのり)様 
日本障害者協議会代表、きょうされん専務理事 ワーカアビリティ・アジア代表

最初のプレゼンターは、NPO法人日本障害者協議会代表を務めていらっしゃる藤井克徳さんでした。藤井さん自身全盲を抱えていらっしゃいますが、まるでそれを感じさせない、スライドの再生と息の合ったプレゼンテーションをしてくださいました。 

日本の障害への捉え方

日本では、視力聴覚など内部的な障害を持っている身体障害者、文字や数などに弱い知的障害者、うつ病などを持つ精神障害者の三つを合わせて障害者としています。これに沿った障害者の数は936万、日本の総人口の約7%にものぼります。これに認知症の方、462万人を加えると、日本の総人口の約11%の方が障害を持っています。10人に1人が障害者だと考えると多いように感じられますが、ニュージーランドでは約22%が障害者として認定されていることを考えるとどうだろうか、と藤井さんは投げかけられていました。どこまでを障害者とするかはその国の社会の発展に比例すると藤井さんは仰います。人間誰しも亡くなる瞬間には障害を被ることからも私たちにとって身近なもののはずです。その発症のタイミングが違うだけにもかかわらず、「自分に障害は関係ない」という意識が強いのではないか、と藤井さんは仰っていました。

障害者権利条約について

そこで生まれたのが、21世紀最初の国連条約である「障害者権利条約」です。この条約の素晴らしさは3つあります。1つ目は世界共通のルールであること。初めて障害分野の世界共通ルールとして定めたことで、国際交流がしやすくなりました。2つ目は北極星のような存在であること。目指す先が見えやすくなりました。3つ目は社会のイエローカードのような存在であること。国連の担当者は条約発布の際、「障害者は特別な人間ではなく、特別なニーズを持つ人間である」とコメントしました。この障害者権利条約の起草に藤井さんも関わっており、障害者である自分たちを抜きに障害者のことを決めないという考え方に感銘を受けたそうです。障害を持っている人への特別な決まりではなく、障害を持たない人との平等性を説いているこの条約によって、新しい障害の価値観が打ち出せたのではないでしょうか。

新しい障害観の確立

障害者権利条約が生まれたことで、藤井さん自身自分の抱えている全盲に新しい障害観が生まれたと仰っていました。全盲というよりも情報障害、移動障害と捉えることで、音付きのパソコンを使用する、アシスタントをつけて移動をしやすくするなど、自分の抱えている障害に対して新しい解決策を打ち出せたそうです。また、このように新しい障害観が確立したことで、周りの環境が重要になってくる、とも。音の出るパソコン、アシスタントをつけるなどの解決策は周りの協力ありきで、成せたものです。障害というのは周りの環境次第で、重くもなり、軽くもなる、私たちが障害に対して当事者意識を持ち、障害を持っている方に接することで、世の中が変わっていく一歩になる。藤井さんは力強い言葉で、プレゼンテーションを結ばれました。

尾崎 真理子(おさき まりこ)様 
公益社団法人鳥取県人権文化センター 次長兼上席専任研究員

尾崎さんが次長兼上席専任研究員を務める公益社団法人鳥取県人権文化センターは、1997年に設立され、鳥取県内の企業・自治体に向けて、人権についての勉強会や研修の教材開発、人材教育、啓発をするための情報提供を行っています。

今回は、教育や啓発の役割、啓発活動を行う際に意識していること、そして、現状の課題についてお話をしていただきました。

教育や啓発の役割

2017年、国際条約である障害者権利条約の内容に沿うよう、既存の法律が変更され、障害者差別解消法、ヘイトスピーチ解消法、部落差別解消法が成立しました。それらのような差別や排除が根底にある社会問題について法律ができる場合、教育や啓発についての条項が盛り込まれています。尾崎さんは、教育や啓発には、大きく2つの役割があると仰います。1つ目は、法律ができたということ自体を知らせるということ。どのような法律ができたかを知ることによって、社会にこのような問題があるのだと人々が関心を持つ効果があります。また、自分たちが社会問題の加害者側になってはならないという抑止力が働くことも期待されています。2つ目は、人々が社会問題の背景を理解し、解消へ向けたアクションを起こすこと。社会問題が正しく理解されることによって、他人事ではなく、自分事として捉え、行動に移してもらうことが期待されています。

啓発活動を行う際に意識していること

尾崎さんは、教育や啓発活動を行う際に気をつけていることがあるそうです。障害者差別解消法の教材を作成した際に注意したこと、2つをお話しいただきました。1つ目は、障害はどのようなものであるかという人々の考え方を変えること。多くの人々は、障害が心身にあるから問題が起こると考え、関心を持たず、他人事として捉えてしまっている。社会が変わればこの問題が解消される、これはひとりひとりの問題だ、と自分の問題として捉え直してもらえるように工夫しているそうです。2つ目は、情動、感情、価値観に訴えること。社会はアンフェアで、障害がある人は日々、不利な状況を強いられていると伝えることだそうです。そして、障害のない人に、我々は不当に得をしている、アンフェアな社会に加担してしまっていると自覚してもらおうとしています。人々が持つ、アンフェアに生きたくない、清く生きたいという感情を刺激するのだそうです。

現状の課題

教育・啓発活動を続ける中で、現状の課題について、エピソードを用いてお話しいただきました。これは障害を持ち、車椅子で生活していた方が、避難所に避難した時のエピソードです。

まず、その避難所には、日々色々な物資が届く中、仮設トイレのどれもが車椅子に対応していなかった。そのため、ポータブルトイレを自分で用意して利用していました。その避難所は一人分のスペースが区切られて与えられていましたが、ポータブルトイレがどうしても通路側に出てしまっていたそうです。すると、管理者から撤去してくれと言われ、トイレ無しには生活できないため、その方はもと居た住まいに戻らざるを得なかったそうです。数日間は水や食事が届かず、その後も水のみの支給にとどまったそうです。

尾崎さんは、大きく2つの課題を指摘します。1つ目は、想定が甘いということ。障害のある人は身近にいるはずであるのに、きちんと安全に使えるトイレが用意されていない。そのようなトイレは安価なものでも、仮設トイレに比べて7〜8倍の値段で、効率、コストで足踏みしてしまう自治体もあります。これは人々の無関心から来るものです。2つ目は、どんな人にも同じスペースが与えられることが平等だ、とすること。今回の問題も個人的なことで文句を言うな、と我慢を強いられてしまっています。全体的な利益のためにと言う大義名分で、平等が異なる方向に解釈されてしまっている。障害のある人とない人の間で、アンフェアな関係が続いている中で、アンフェアからフェアにチャレンジするという意識が大事なのです。

最後に、社会問題を考えてみることが大事、市民に関心を持って欲しいとプレゼンテーションを締めくくられました。

垣内 俊哉(かきうち としや)様 
株式会社ミライロ 代表取締役社長 

今回は、株式会社ミライロの垣内さんからコメントをいただきました。

垣内さんは、「差別解消法」というネーミングに問題があると指摘します。差別という言葉が使われたがために、差別が助長されてしまうのではないかという不安があるそうです。差別は既になくなってきており、現在は一歩進んで取り組んでいることがあります。それは、障害者手帳の電子化です。2019年1月にアプリケーションを開発が完了し、現在はリリースに向けて動いているところだそうです。これは、一人一台持っているスマートフォンと障害者手帳をリンクさせるもので、携帯電話番号を登録してから交付されている障害者手帳を読み込めるようになっています。こうして不正利用を減らすとともに、登録した情報を、窓口で見せることができるようにするそうです。また、車椅子の幅、高さ、奥行き、重さなども登録できるようにし、航空機などを利用する際の手続きをスムーズにするとともに、部屋探し、家探し、職探しもできるようにすることも考えているそうです。このようなアプリケーションは世界初で、オリンピックのタイミングでリリースし、世界に向けてアピールしたいと仰っていました。