2月15日(金)、第30回となる経営者朝会を開催させていただきました。今回は「日本の食・フード」をテーマに、農業を通じてより良い社会をつくることに挑戦する経営者にご登壇いただきました。今回も数多くの方がお越しくださり、おかげさまで盛会のうちに終了いたしました。誠にありがとうございました。
1988年生まれ。筑波大学在学中に五十嵐立青つくば市議の下でインターンシップを行い、農業の問題、障害者雇用の問題を知る。農業法人みずほにて研修、ホウレンソウ農家を中心に農業の専門知識を学ぶ。同時に障害者自立支援施設で勤務し、障害者福祉の現状を実地で学び、「つくばアグリチャレンジ」を五十嵐とともに設立、副代表理事に就任。2012年公益財団法人日本青年会議所主催「人間力大賞」グランプリ、2013年世界青年会議所主催「世界の傑出した若者10人」選出。
https://gokigenfarm.com/
東京大学卒業。2004年ソニー株式会社に入社、イギリスでの海外赴任を経て2012年に退社。1年間岩手県釜石市で震災復興支援事業に従事。経営コンサルティング会社勤務を経て、山口商店合同会社を設立。2018年より食のEC(CtoC)事業を手がけるベンチャー株式会社ポケットマルシェに常勤取締役として参画。
https://poke-m.com/
https://yamaguzzi.xsrv.jp/
本日最初のプレゼンターは茨城県にある「ごきげんファーム」を運営している伊藤文弥さんでした。「ごきげんファーム」とは、認定NPO法人つくばアグリチャレンジによって運営されている障害のある人が活躍する農場です。今回は、この農場の取り組みを、障害者雇用の現状を交えながら、お話しして頂きました。
伊藤さんは、2011年4月に「ごきげんファーム」をスタートされました。それは、障害のある人が働く場所がない、そして、農業の働き手がいないという問題意識からだったとおっしゃいます。特に、中度から重度の障害のある人の働く場は、軽度の障害のある人に比べて少ないところに問題意識を感じたそうです。ごきげんファームを始めることによって、この二つの問題が一度に解決できるのではないかと考えたそうです。
2011年から始まったこの農場では、今では様々な障がいのある人たち100名以上が働いており、年間100品種以上の野菜を作り、野菜セットを販売しています。野菜を作る以外にも、地域の農家さんのお手伝いや、地域の方に向けた体験農園の運営をしているそうです。伊藤さんは、障害のある人の「働きと暮らし」を良くするため、単に働く場所を作るだけでなく、地域の人との関わりをどう作っていくかが大事だと仰います。ごきげんファームでは、地域の人との交流イベントとして、餅つきや里芋掘りなども行っています。これにより、地域の人との関係を深め、障害のある人に対する偏見を壊していくことに挑戦しています。
また、クラウドファンディングの取り組みについてもお話し頂きました。新たな耕作機の購入や井戸を掘る、電気を通すための資金をクラウドファンディングで集めるという試みも行っているそうです。助成金だけに頼るのはなく、自分たちでお金を集め、さらに、クラウドファンディングを通して、事業を知ってもらったり、そのプロジェクトに最初から関わってもらったりする狙いがあると仰います。クラウドファンディングのリターンは、運営するレストランの食事券で、関わってくれた人がそのままお客さんになることももう一つの狙いだそうです。
最後に、障害者雇用に関する課題についてお話しいただきました。課題は大きく二つあると考えているそうです。一つは、地方には障害のある人の働く場所がまだ少ないこと。これは、障害のある人を雇用する義務が発生する大企業が都心に集中していることに起因しており、地方での働く場が確保できていないという現状があるそうです。二つ目は、精神障害のある人の雇用が進んでいないこと。知的障害のある人の雇用は増えているのにもかかわらず、精神障害のある人の雇用は、企業側のハードルが高く依然として少ないままだそうです。伊藤さんは、農業を活用しながら障害者雇用のモデルを作りたいと仰っていました。
岩手県釜石市での復興支援活動について
山口さんは、ポケットマルシェを立ち上げる数年前から、岩手県釜石市で数々の復興支援を行っていらっしゃいました。最初に行った支援は、駅伝で勝ちたい中学生と毎朝走り込みをすることだったそうです。その他にも仮設住宅で健康を維持するために住人の方とラジオ体操を行うなど、地域の人と関係を築くことで、行政と住民を繋ぐ役割を担い、まちづくりに関して話し合えるように心がけていたと仰っていました。
(株)ポケットマルシェを立ち上げたきっかけ
その後、釜石市で暮らし、地域の人との仲を深めていくにつれて、一次産業の現実について知ることができたそうです。その現実とは、ただ食べ物を作っているだけでなく、自然の近くで生活しているという誇りが生産者にある一方で、生産者人口の減少や、低い収入という厳しい状況の二面性があるということでした。その状況を打破すべく、ポケットマルシェの立ち上げを決めたそうです。
ポケットマルシェについて
山口さんは、消費者が生産者のことを知って食材を購入できる一方で、生産者から消費者の姿が見えていないという状況に問題意識を持たれたそうです。そこで、オンライン上で、消費者が欲しい食材を直接生産者から買うことができる仕組みを考えました。そして、生産者と消費者を繋げるプラットフォームとしてリリースされたのがポケットマルシェです。
このサービスには、「消費者が多様性のある食材と出会える」、また、「生産者が消費者と対等な関係を築ける」という二点の特徴があります。ポケットマルシェでは、生産者にとっては、普段生産をしている食材はもちろん、実験的に作った少量の食材も売り出すことが可能で、その時折の旬な食材や、規格外なものを販売することができます。一方、消費者にとっても珍しい食材と出会えるという利点があります。また、生産者が売りたい価格を自身で設定することができ、それに納得した消費者が購入することで、消費者と対等な関係を築けるようになりました。そうしたメリットを踏まえ、今では1070人の生産者が登録しています。
“ポケットマルシェ”のミッション
「ミッションを持っているブランドが受け入れられる。農業従事者が日本で非常に減っているという状況の中で、組織(ポケットマルシェ)のミッションはどういう風に定めているのか教えていただきたい」という質問が山口さんに投げかけられました。山口さんはこれに対して、現実的であるもの、また大きなものの、二つのミッションを掲げていると仰られました。一つ目のミッションは、現実的なもので、生産者の収入の安定や、食文化の維持を目指すというものです。今の生産者の収入の安定を目指すことはもちろん、それにより、生産者になりたいと志す人が増えていけば、食文化を守っていけると仰っていました。そして二つ目は、「日本中で、世界中で、生きる意味を増やしていきたい」という大きなものを掲げていらっしゃいました。物で溢れている今の世界で、欲しいもの、そしてやりたいことがどんどんと減っていると山口さんはご指摘していらっしゃいました。生きる意味そのものが問われている今の社会を、世の中に知られていないもの、また一人ひとりの思いを発信することで変えていきたいと、力強く仰っていました。
本年初の開催であった今回の経営者朝会では、ソーシャルビジネスのミッションを持ち、食の流通に携わっているお二人のお話を伺うことで、“食“という観点からの社会事業へ貢献して行く重要性について、学びと理解を深めることができました。