【開催報告】第27回SBP主催経営者朝会(2018/4/20)

4月20日(金)、第27回目となる経営者朝会を開催させていただきました。新緑の化粧をした木々が目立つ、清々しい朝の大手町でした。

今回は「介護への新たな挑戦」をテーマに、介護事業の変革に挑戦する経営者にご登壇いただきました。今回も数多くの方がお越しくださり、おかげさまで盛会のうちに終了いたしました。誠にありがとうございました。

プレゼンター

秋本 可愛(あきもと かあい)様 株式会社 Join for Kaigo 代表

1990年生まれ、山口県出身。大学生の間に認知症予防につなげるフリーペーパー「孫心(まごころ)」を発行し、全国学生フリーペーパーコンテストStudent Freepaper Forum 2011で準グランプリ受賞。大学卒業後の2013年4月に株式会社Join for Kaigoを設立し、超高齢社会を創造的に生きる若者次世代リーダーのコミュニティ「HEISEI KAIGO LEADERS」を運営し、若者が介護に活躍できる環境づくりに注力。

http://heisei-kaigo-leaders.com

矢田 明子(やた あきこ)様 Community Nurse Company株式会社代表取締役 NPO法人おっちラボ代表理事

出雲市出身。島根大学医学部看護学科卒。課題の多い地域医療の現場で住民に寄り添った解決策として、コミュニティナースを提唱。スマホアプリを活用した訪問看護など、自宅で過ごす高齢者を支えるとともに、全国の学生が集まり地域医療を学ぶ育成プログラムを開催。島根県総合発展計画策定委員。2017年第9回若者力大賞ユースリーダー賞、日経ウーマンオブザイヤー2018受賞。第1回チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞 ファイナリストとして選出。

http://community-nurse.jp/

阿久津 美栄子(あくつ みえこ)様 
NPO法人UPTREE代表理事

1967年生まれ、長野県出身。地元企業ホクト㈱入社。1997年Dell Japanへ転職。その後結婚・出産同時に関西転勤。関西在住時に遠距離での両親介護と子育てを同時に経験、そのダブル経験から現在の原点となる家族の介護をする人の支援団体NPO法人UPTREEを立ち上げる。日本初介護者の為の手帳“介護者手帳”を製作。家族を介護をする介護者支援モデルの確立に注力。

http://uptreex2.com/

内容

秋本 可愛(あきもと かあい)様
 株式会社 Join for Kaigo 代表

最初のスピーカーはSBPでは珍しく20代の秋本可愛さん。トップバッターで少し緊張した様子ながら、力強く話し始めました。秋本さんは「介護から人の可能性に挑む」とミッションを掲げ、介護の若手の人材の確保、若手の人材が活躍できる環境作り、介護職を確保するための行政が行うイベントのプロデュース、商品開発など、介護人材を中心とした事業を展開されています。

もともとは介護への関心はなかった、という秋本さん。大学のサークル活動で、認知症の方と一緒に読むフリーペーパーを作ったことから関心を持ち、介護関連のアルバイトを始めました。そこで、ある一人のおばあちゃんとの出会いが、秋本さんにさらなる転機を与えます。そのおばあちゃんは、「生きていることが申し訳ない」と、ポツリ。必ずしも生きていることが幸せではない、支えられる側も苦しい思いをしている。支える側、支えられる側の双方が苦しんでいる、という介護の現状を知ることになった。そんなとき、東日本大震災が起き、ほかの様々な分野の社会課題には関心が増えたが、介護領域への関心が薄いことにも問題意識を持たれました。そこで、介護にもっと若手を集めるため、「HEISEI KAIGO LEADERS」という取り組みを始めました。

秋本さんは、「2025年問題」に向けて活動を行っています。2025年は団塊の世代が後期高齢者となり、介護人材が37.7万人必要だと言われています。それまでに何ができるだろうか、と考え、何を学んで、どんなアクションをしたらいいのか、テーマを掲げながら勉強会を重ねました。しかも、勉強だけではなく、行動を起こさないと何も変わらないということで、始められたのが「KAIGO MYPROJECT」でした。これは介護について、課題意識を持っている若い人たちの思いを、実際のアクションにつなげていく取り組みです。

最近は、介護業界の採用活動にも力を入れられています。介護業界の採用の現状は、業界のイメージが悪く、賃金も高くはないことから、説明会にも人が来ず、95%の若者が興味を持っていないという厳しい現状があります。

その中で、秋本さんが課題に感じたのが、介護業界の諦めのムードです。実際の写真として、大学生に対する企業説明会での出展企業のパネルが映し出されると、朝会参加のみなさんからもどよめきがありました。パネルは、雑な仕上げ。人材募集に知恵を絞る時間も余力もないことが見て取れたからです。介護業界は疲弊し、採用も力を入れられないから人材が集まらず、無限の負のループに陥っていると秋本さんは指摘します。

そこで、業界全体で介護を盛り上げていこうと、秋本さんは介護の人材会社を立ち上げ、一つの介護企業に対してではなく、介護業界の人材をまとめて応援する仕組をつくりました。今は、これをもっと広げていこうとプログラム開発を行っています。
最後に秋本さんは、今まで一人一人の思いに向き合ってきたが、まだ東京だけでしかできていない。意欲のある人だけでなく、新しい取り組みとしてより多くの若者を巻き込み、2025年の私たちの未来に向けて、仲間を増やしていきたいと、熱く締めくくられました。

矢田 明子(やた あきこ)様 
Community Nurse Company株式会社代表取締役 NPO法人おっちラボ代表理事

「出雲出身の出雲在住、ドメスティック出雲!」という、ユニークで明るい自己紹介から、矢田さんのプレゼンが始まりました。

主に行っているのは、コミュニティナースという存在を広めること。医療機関に行かないと出会えない、ケアの専門家ができるだけ暮らしの身近にいることで、医療に従事している人の知識を、一般の人にも広げていこうとしています。

矢田さんがこの活動を始めるきっかけとなったのは、お父さんを癌で亡くされたことです。父の日常にケアの専門家がいたら、早くから父の病気は対処できたのではないのか、重病になってからでないと気づけない社会はおかしい、と感じたそうです。

ご自身が医療職となり気づいたのは、介護や医療職は社会保障制度内でしか報酬が支払われず、日常にケアの専門家が活動するのはボランティアになってしまい難しいということです。矢田さんは、「おっちラボ」というNPOを立ち上げました。

ここでは、様々な分野の人が集まり、「同級生」になって学校を運営し、介護の問題に対して、それぞれの知見を共有、融合させて新しい解決策を生み出します。たとえば、介護ケアの従事者が他の分野の人からアドバイスをもらうことで、制度外でも価値のあるサービスに生まれ変わり、そこに資金が集まってくるようになる。他の分野の人にも医療や介護の知識が大量に共有され、日常の暮らしの中で介護や医療の知識が使われることとなります。

この取り組みは実際に雲南市と共同で、地方創生の目玉事業として、若者を育成するために行われています。様々な分野の学び合いをするだけではなく、実際に行動を起こす、実現する人材を育成することを成果に据えています。このアクションを起こすためには、「同級生」がいることが重要です。学び合うだけで孤独だと実現を妨げてしまうからです。矢田さんがここで示されたこの学校の集合写真は、だれが介護職で、だれが医師で、だれがパティシエなのか、まったく分からず、分野を超えた同級生がいることが実感できました。

雲南市では、今では120名以上の若者が活躍しています。雲南市の地域を巻き込み、この地域の人のコミュニティを繋げ、事業化・起業したり、事業継承が起きたり、有料の事業が起こったり、様々な活動が起こりました。

また、いかに制度を超え、専門領域の枠を超えた「学びの越境」をさせ、日常的に存在し人々の健康を支えるのか、という挑戦をしているのが、訪問看護ステーション、コミュニティナースです。ここでの事業は全く医療の分野には見えませんが、だからこそ気軽に参加しやすく、医療の同級生が多く運営しているため、日常でその知識を得ることができます。

また、コミュニティナースが図書室を運営している例もあります。一方的な知識の提供、介護する・されるの関係ではなく、対等の友達という関係になることから、身体や介護以外の相談もしやすく、よいおせっかいが生まれています。例えばこのコミュニティナースに対して、クラウドファンディング(食らうど飯(はん)ディング)と称して、食料の提供を地域の方が行っています。これにより、収入を増やすのではなく、支出を減らすことで、この事業が存続できるモデルとなっているのです。

この高齢者の集まる場所を保育園の散歩コースにしてもらうことで、疑似のじじばば体験ができ、地域が繋がっていきます。人と人とを繋いでいくことは、介護保険ではお金になりませんが、やはり広げていかないといけない、と矢田さんは仰います。この活動が、どのような価値があり、どのような資金の中でなら包含することができ、どのような民間サービスで存続できるのかというのは、介護以外の他の分野から知恵をもってくるのです。

また、矢田さんは共同の学びと関係性の作り方という、知恵を共有するためにコミュニティーナースカンパニーというサービスや、実践と成果を一体化して研究して回すコミュニティナース研究所も運営しています。いかに制度を越境して知識を交流させるのか、矢田さんは今後もこの活動を全国に広めていきたいと仰って締めくくられました。

阿久津 美栄子(あくつ みえこ) 様 
NPO法人UPTREE代表理事

阿久津さんが運営するNPOのUPTREEは、地域のロールモデルを作るために活動しており、拠点は東京都の小金井市です。家族の介護を手伝う人を支えています。

阿久津さんがこのNPOを立ち上げるきっかけとなったのは、ご自身が37歳から始まった介護生活を経験したことだったと仰います。阿久津さんは、先に母が倒れ、主たる介護者は父として、自宅から実家に通う遠距離介護が始まりました。しかし、父も癌で倒れ、阿久津さんは両親の同時介護を行い、結局父を母より先に亡くされました。この間、阿久津さんは自身の子育て、仕事も並行して行わなければいけない生活だったと仰います。この時に気づいたのが、介護は急に始まるということと、介護制度はあるが、家族介護者に向けたサービスはないということです。

また、介護する人が被介護者よりも先に亡くなってしまう現象もあるということを、ご自身が経験した例からも示されました。
阿久津さんは次に、550件(558人)という数字を示されました。これは介護殺人の件数で、調査によると大体介護が始まってから3年以内に発生し、日本では2週間に1件の頻度で発生しています。また、介護殺人をするのは配偶者の男性が多いそうです。理由としては、男性は人に頼ることができない、特に仕事中心で生活してきた人は、介護を仕事にしてしまうので、評価をされず、また思い通りにコントロールすることのできない介護にイライラしてしまうそうです。これを聞いた参加者のみなさんは、自戒するような低い頷きが漏れました。

小金井市は特に段階の世代が多く、介護の問題が顕著にあります。また、現在は団塊の世代のジュニアが50代となり、重要な役職として働いていることが多いのですが、介護のために離職してしまう人がたくさんいるそうです。というのも、介護は急に始まるため介護に関する知識や情報がなく、介護保険は介護者が働いて近くにいると使用できるものの優先度が低くなってしまうからです。

阿久津さんは、このような働きながらの介護が不可能な現状や、介護により離職した人の再就職が困難であることが問題だと指摘されます。

介護者とは多様だということも認識されていない、と阿久津さんは仰います。自宅での介護だけではなく、遠距離も、障害の方も、依存症や、引きこもりの家族を持っている人も介護者です。

また、介護保険制度も介護に関する人しか知らないことも問題だと。介護保険は2000年に始まりましたが、申請主義なので全く認識されていませんでした。しかし、2006年自治体以外の窓口である、地域包括支援センターという窓口を作ったことで、認知が広がり、2012年に地域包括ケアシステムが始まり、介護者を地域で支えるシステムを作ることが申請され、特別養護老人ホームができました。しかし、特別老後老人ホームも入居の制限がかかり、2018年の現在は「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部ケアシステムが設置され、国の中でも縦割りではなく、一緒に横の繋がりで、お金もシェアをして介護問題に取り組む動きがみられるようになりました。

こうした状況のもと、UPTREEは主に「居場所事業」と「啓蒙事業」を運営しています。
居場所事業については、介護をする人の居場所として、カフェを用意しています。一方、啓蒙活動としては、介護手帳を作っています。この取り組みは日本初です。

「介護手帳」は、介護者と介護をする人のためのもので、事前知識を得るところから、介護が始まり、終わるまでの知識を知るための手帳です。また、啓蒙活動の1つとして最近始めたのはメールの無料相談もあり、今後はデータを蓄積してAI的なアプリも開発できるのではないか、とのことでした。

また、日本と比較した海外の介護事例も紹介されました。例えば、ヨーロッパは介護者に対する支援が非常に多く、家族介護者が国からお金をもらい介護職という地位につき、「孤独」担当大臣もあるそうです。アメリカでも、家族介護者に対する支援が認められました。

一方の日本では、介護者を主にした支援がないのが現状で、介護者の負担だけが増えています。その中でも面白い取り組みとしては、品川区で、企業のコールセンターと共同して、無償の見守り連携をしています。これが今後どのようなビジネスモデルになるのかはわからないのですが、これからこのような民間連携の事例が増えていくだろうと阿久津さんは締めくくられました。