第44回目となるSBP経営者朝会は、リアルとオンラインのハイブリッド形式で開催されました。今回は「デザイン、データ、アドボカシーを通じた社会変革の促進」をテーマに、3名の起業家の方にご登壇いただきました。2024年も残り僅かとなり、史上最多の選挙イヤーを経た世界では、今後、政策への社会の向き合い方が大きく変わる時期を迎えると考えられます。具体的には、1) 社会課題の可視化が進み、2) アドボカシーと官民協働がなされ、3) 実証データに基づく政策立案(EBPM: evidence based policy making)が加速することが求められています。今回は、3名の起業家にそれぞれのアプローチから政策の在り方についてお話しいただきました。
社会課題を解決するデザイン
筧裕介氏は、デザインを用いた社会課題解決の取り組みについて紹介されました。イシュープラスデザインは、阪神淡路大震災を機に立ち上がり、「震災+Design」プロジェクトを皮切りに、地域課題にデザインの力で貢献してきました。デザインは視覚的な美しさにとどまらず、共感や心の動きを引き起こすクリエイティブな力として位置づけられています。同法人は、行政やボランティアと協力し、スムーズな連携を支えるツールの開発にも取り組み、社会的な問題解決を目指しています 。
人類の認知症観を変えること
また、筧氏は現在、認知症に対する理解を深める「認知症の世界の歩き方」プロジェクトに力を入れられています。このプロジェクトは、認知症患者の見ている風景や感じている世界を他者が体験することで、偏見を減らし、共感を育むことを目的としています。認知症はもはや個人や家族だけでなく、社会全体で受け入れ支えていくべきものと捉えられています。この取り組みを通じ、認知症になっても楽しく生きられる社会の実現を目指されており、日本国内のみならず国際的にも発信することで、人類全体の認知症観を変えることを目標とされています。
官民連携の政策作り
岡本敬史氏は、株式会社streamsを設立し、官民連携による政策形成と社会課題解決事業を推進しています。復興支援の経験を通じ、行政と民間企業の協力が重要であると実感した岡本氏は、官民が互いの強みを活かして政策を形成する体制づくりに注力してきました。株式会社streamsは、子ども保育のデジタル化や地域交通課題の解決といった分野での政策を実現し、社会のニーズに即応する仕組みづくりに取り組んでいます。迅速なデータ収集や技術を活用し、実際の政策に反映させることが、地域社会への貢献につながるとされています。
こどもDX推進協議会たとえば、岡本氏は「こどもDX推進協議会」において、子育てにおけるDXの推進にも関わっています。協議会には150以上の企業や自治体が参加し、デジタル技術を活用した保育支援の導入について協議しています。子どもの成長を支えるだけでなく、将来の社会保障への影響も期待される取り組みとして、官民が一体となって環境整備を行っています。岡本氏は、デジタル技術と連携した官民の協働が、社会に新しい価値を提供し、持続可能な発展につながるとお話しいただきました。
エビデンスベースの由来とその階層
統計学者の西内啓氏は、エビデンスベースの政策形成の由来と重要性について述べました。西内氏は、エビデンスに基づく政策立案(EBPM)が医療から始まり、教育や公共政策へと広がってきた背景を説明されました。経験や勘に依存していた従来の政策から、科学的データを基に効果を検証し、政策の有効性を高める必要性が認識されつつあり、エビデンスベースの思考が、科学的根拠の確立により、社会に与えるインパクトに強調されました。
EBPMを通じた社会変革の促進
さらに、西内氏は、エビデンスの信頼性の階層についても解説されました。最も強いエビデンスとされるのが、ランダム化比較試験(RCT)やメタアナリシスであり、これらが政策形成において不可欠な役割を果たすとされています。政策の精度と正当性を確保するため、信頼性の高いエビデンスを重視し、統計学を活用したデータドリブンなアプローチが今後の政策形成に不可欠であると語りました。また、エビデンスベースの政策決定によって社会全体の信頼性が向上し、特に社会保障や教育分野で効果的な応用が期待されると述べられました。西内氏は、科学的データを基にした政策立案が、社会の公平性と持続可能な成長を支える基盤となると締めくくられました。
筧様への質問:
Q:放送業界では認知症のことを痴呆症やボケと称していましたが、そのような表現を辞めようという動きがあります。来年制作される映画に関して、内容をお伝えできる範囲で教えてください。
A:社会的孤立をし、人との関係性を失うことが認知症になるときのリスクでありますが、認知症を発症した後でも継続的な関係性を築けていたり、やりたいことをやり続けていたりする人は、認知機能が中々低下しないということが明らかになっています。認知症は日常の延長線上にあるものであり、誰にでも起こりうるもので、認知機能は加齢とともに落ちていくことを誰もが当たり前に受け止める社会、認知症になっても社会的関係を持ち続け自分の人生を生きることができる社会、映画を通して社会の認知症に対する捉え方が変わっていくような、そんなメッセージを込めた映画を今作ろうとしています。
岡本様への質問:
Q:労働市場改革においてDXや官と民の連携が役に立つのではないかと感じるのですが、そこに関して何かお考えがあればお教えください。
A:企業の役割や位置づけが世界的にも大きく変わってきていると感じています。元々民間企業も政策への提言をしてきていると思いますが、民間企業の中でもできることの幅と深さがどんどん深くなってきているように感じるので、より官と民が連携して政策を作って社会に実装していくことをやっていけるといいなと感じています。
西内様への質問:
Q: メディア業界は、西内さんに紹介いただいたピラミッドの図(上記参照)のほぼ下から2つの専門家の話と事例で商売をしていると思うのですが、この状況に関して何かアドバイスをください。
A:データをコンテンツ化するトレーニングがまだ報道においては足りていないように感じます。例えばアメリカの事例ですと、大学内に誰でも気軽にデータ関係の相談や、科学的解釈の相談ができる窓口が設けられています。日本で同様のことは中々難しいかもしれませんが、大学にいる定量的なことを専門に扱っている方々のアドバイスを受けたら、報道のクオリティを上げていける余地があるのではないかと思います。